永遠のカタチ 14/20 ~再会~

【永遠のカタチ14/20 ~再会~】

Kさんの病室は、17Fの4人部屋で、
病室に入ってすぐ、右手の一角でした。

Kさんは、病院のベッドの上で、
上半身を起こし座っていました。

約15年ぶりに会ったKさんは

ひどく痩せていましたが

それでも顔には、昔の面影があり

すぐに、懐かしい昔のKさんのままに
私の眼には映りました。

※記憶とは、不思議なものです。
今でも、Kさんのことを思い出すときは
最後に病室で会ったKさんではなく
昔の、サークル時代のKさんの顔が
パッと浮かぶのです。

最初に、なんと会話したのかは
よく覚えていません。

「Kさん、やっときたよ~。
遅くなってごめんね。」

と、何気ない調子で私は言ったかもしれません。

そして、その後すぐに、
私は少し泣いてしまったように思います。

「なんで、さかもとさんが泣くのぉ?」

といったことを、
Kさんがボソっと、いつもの調子で
ちょっと笑いなら言った気がします。

すぐに私も、へへへと涙をぬぐい、

ふと見ると、

Kさんは、携帯にイヤホンをつけて
何か聴いているところだったようでした。

サークルのメンバーと連絡が
とれるようになった後、

私以外にも、

Kさんの希望に応じて、

昔のデモテープや
サークルのライブビデオから、

音だけを取り出して送ってくれた
メンバーが何人かいたようでした。

それらの昔の音源を聴くのが

Kさんの療養の楽しみのようでした。

私たちは病室を出て話すことにし、

車椅子で移動するKさんの背を
私は慣れない手つきで押しつつ

病棟のフロア内にある、見晴らしの良い
ラウンジのテーブルに着きました。

そこで二人で

Kさんの携帯に入っている
懐かしいライブ音源を

イヤホンで聴きました。

「さかもとさんと一緒に組んでた
バンドのもあるんだよ」

そう言って、

Kさんが再生してくれたのは

そのバンドで参加した

サークルの定期演奏会の
(・・・多分、池袋のライブハウスの時の)

ものでした。

私は最初、

昔の自分の声に
「きゃーーー」と思ったけど、

ビデオから取り出した音源を
イヤホンから聴いていると

まるでタイムスリップした
気持ちになりました。

もう20年も前だけど、

不思議と、あの狭い空間、光、

誰かのステージを眺めている時に
間近にあった何気ない机、
押し開けたドア

そういった記憶の断片と

ライブをしていた時の
ドキドキした感じが蘇りました。

昔の私の声、、、
みんなの楽器の音、、、

私の歌は決して上手くはないけど

たぶん今では出せない
若い一生懸命さ、無垢な響きに
自分で、ハっとしました。

傍らでKさんは
自分のベース演奏について

「うん、これは本当にいい感じだった」

と言っていました(笑)。

そして、曲の間のMC(おしゃべり)。

オリジナル曲を作ることへの想いを語る私。

それを一通り聞いて私は、

「・・・今と、言ってること
ほとんど変わらないね。」

と苦笑しました。

そして、あまりにも、

自分の中の変わってないものを

目の当たり(耳の当たり!?)にして、

なんだか心の底から

深い霧が晴れるような心地がしました。

Kさんや

そして他にも

いろんな人、いろんな物事と

時間的距離的に離れ、

勝手に自分で壁を作ってしまったとしても

自分の本質的なところは
変わりなく身の内に存在し

そして、そんな私を
昔も今も、変わらず
愛してくれている人達がいること

見ようとしていなかったのは
自分だった。

それは、私であり

Kさんでもあり、

だれにでも、そうしたことが
あるのではないかと思いました。

(つづく)

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